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東京地方裁判所 平成2年(ワ)14252号 判決 1992年12月21日

原告

甲田太郎

右訴訟代理人弁護士

原口紘一

被告

太陽鉄工株式会社

右代表者代表取締役

北浦公雄

右訴訟代理人弁護士

石嵜信憲

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告が被告との間において雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

二  被告は、原告に対し、平成二年九月以降毎月二八日限り、月額金二〇万六八五〇円及びこれに対する各月末の翌日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  当事者

(一) 被告は、空気圧機器、油圧機器、産業用ロボット、ビジネスフォーム印刷機、粉体機械等の製造販売を営む会社である。

(二) 原告は、昭和三五年生まれで、九州産業大学卒業後、昭和五七年四月東京都内の株式会社三桂製作所に入社し、昭和五九年七月に同社を退職し、その後アルバイト等で職を転々とし、昭和六三年八月ころ、都内の三井精機工業株式会社に営業マンとして入社したが、約一年で同社を退職した。

2  原被告間の雇用契約

原告は、職業安定所の紹介を経て、平成元年九月二〇日、被告東京本社で受付面接を受け、同年一〇月三日、同じく東京本社において、三間清年取締役販売本部長と幸栄人事部長の両名による面接試験を受け、被告との間で、同月九日雇用契約を締結し、同日から被告八王子営業所に勤務した。

3  被告就業規則の関係規定及び運用

(一) 被告就業規則五条は、服務心得と題して、従業員の守るべき事項として「従業員は上長の職務命令に従って職場の秩序の保持に協力しなければならない。」(同条二号)と定めている。

(二) 同三五条は、解雇事由として、「労働能率が著しく不良であって他の職場に転換することが困難なとき」(二号)、「前各号に準ずるとき」(四号)と定めている。

(三) 同二九条は、試用期間に関し、「試用期間は六か月間とする。」とし、「試用期間中、採用不適当と認めた場合は採用を取消す。」(一号)と定めている。右のように、被告就業規則には、試用期間を六か月とする旨定めてあるが、実際の取扱は、この期間経過前後に本人に本採用審査に関する論文を提出させた上、被告社長及び役員が本社人事部立会いの上で面接を行い、その結果によって本採用の可否が決定されている。

4  原告の勤務経過等

(一) 原告は、平成元年一〇月九日に被告会社八王子営業所に初出社して以来、稲垣義憲同営業所長のもとで研修を受け、その後、主として日野自動車工業株式会社(以下「日野自動車」という。)の担当となって、営業業務に従事した。

(二) 勤務開始をした平成元年一〇月九日から六か月間を経過した平成二年四月九日以降も、原告は、被告において勤務を継続した。

(三) 所定の試用期間満了前、原告は、正社員としていわゆる本採用となるための試験のための論文の提出を指示された。その後、原告は、右論文を人事部に提出し、平成二年四月三日、被告役員による面接を受け、同論文を書き直して再提出するよう命ぜられ、同年五月七日、論文を提出した。同日、三間本部長は、原告に対し、再提出された論文の内容と本採用面接までの心得等についてのコメントを送付するとともに、本社人事部に原告の本採用申請を行った。

(四) 同年八月二八日、稲垣所長は、原告に対し、同月三〇日に三間本部長と面接をして適材適所を探すようにと告げた。

(五) 原告は、翌日欠勤し、翌三〇日、一旦東京本社に電話で、三間本部長との面談は無駄だと思う旨伝えたが、結局、同日午後、被告東京本社に赴いて同部長と面談した。その際、三間本部長は、原告に対し、<1>進退について、<2>希望職種について、<3>自分の長所短所についてというテーマでレポートを作成して提出するように指示し、原告は、同年九月二日、同本部長にレポート(<証拠略>)を提出した。

(六) 原告は、同年九月一日及び同月三日から同月六日まで欠勤し、同月一二日は午前中で早退した。

原告は、翌一三日に三間本部長と面談した。三間本部長は、原告に対し、右レポートを読んだが、同本部長の説明、説得の趣旨が理解されていない旨指摘するとともに、人事部に身柄を預けるなどと話した。

5  本件解雇の意思表示等

その後、本件訴訟代理人たる各弁護士相互間で話し合いが行われたが、合意に至らず、被告は、平成二年一〇月二二日、原告に対し、<1>上司に反抗的で業務命令に従わない、<2>客先から応接態度について苦情があり、被告会社の信用、イメージが失墜し、受注減等の損失を被った、<3>平成二年八月二九日以降ほとんど出社せず、労働債務不履行があるなどと指摘し、被告就業規則五条二号、三五条二号、四号に該当する事由があるとして、同二九条一号により採用を取り消す旨の意思表示(以下「本件解雇の意思表示」という。)をし、解雇予告手当として二〇万六八五〇円を手交しようとしたが、原告がその受領を拒否したので、これを同月三〇日東京法務局に供託した。

二  争点

本件の中心的争点は、本件解雇の意思表示によって原被告間の雇用契約関係が終了したかどうかである。

右争点に関する当事者双方の主張の要点はそれぞれ次のとおりであり、具体的な事実主張は別紙(一)(略)、(二)(略)のとおりである。

1  被告の主張

本件解雇の意思表示当時、原被告間の雇用契約関係は、本採用の見送りにより試用期間が延長されていたから、本件解雇は雇用契約上留保されていた解雇権に基づくもので被告には広範な裁量権がある。仮に試用期間の経過によって右約定留保解雇権がなかったとしても、本件解雇には就業規則上の根拠がある。

すなわち、原告の勤務状況は、<1>上司の指導に反抗的で、業務命令に従わず、<2>客先での態度につき苦情があり、上司らが再三指導をしても改めようとせず、被告会社の信用、イメージを失墜させ、日野自動車の葉内が発注をやめるなどの発注減により被告会社に損害を与え、<3>平成二年八月二九日以降ほとんど出勤せず、雇用契約上の債務を履行しないなど、被告会社の企業秩序を乱すものであった。したがって、原告には、被告会社就業規則五条二号、三五条二号、四号に該当する事由があるものというべきである。なお、被告がなした本件意思表示において、被告就業規則三五条二号、四号を引用したのは、仮に原告が被告の正社員たる地位にあったとしても、原告には解雇事由があるとの趣旨である。

したがって、いずれにせよ、本件解雇の意思表示によって原被告間の雇用契約関係は終了している。

2  原告の主張

原被告間の雇用契約関係は、本件解雇当時試用期間を経過しており、これを被告主張のように延長する根拠はない。そして、原告には被告就業規則に該当する解雇事由はない。

被告に勤務中の経過は、いずれも、原告にとって心外なことばかりであった。確かに、原告の配属先である八王子営業所の稲垣所長とは相性が悪かったらしく業務遂行上円滑を欠いた面があったかもしれないが、原告の気持ちとしては、この間、仕事に積極的に取り組み、業績向上と自己啓発に努力し、客先でも、新入社員だからといって気後れしないよう自分から積極的に一歩踏み込む努力をしてきたつもりである。

解雇理由とされた「上司に反抗的で業務命令に従わない」との点は、後記のとおり、稲垣所長とのちょっとした感情的な行き違い等が拡大して、適時に適切な改善措置がとられなかったために、稲垣所長の抜き難い不信感へと発展していったものである。仮に上司である稲垣所長に対する関係で、反抗とみ得る態度があったとしても、それは同所長にとって理解困難な原告の態度、行動に対して、同所長が、ただ困惑、叱責するという稚拙な部下指導をした結果、感情的対立に発展していったもので、専門的カウンセラー等に相談するなり、原告にカウンセリングを受けさせるなりして、コミュニケーションの行き違い等を適時適切に処理すれば、これほどこじれた関係にはならなかったであろうと思われる。被告の規模等に照らせば、こうした態勢をとることも可能なのに、そのような努力を何もしなかったことは配慮を欠くもので、本件解雇は解雇権の濫用として無効であるというべきである。また、「客先の苦情」の問題は、その原因が具体的に追及されたことがなく、具体的改善策を立てて原告を指導することもほとんどなされなかった。被告側の社員指導上の不手際も考慮されるべきである。また、客先とのトラブルといっても、日野自動車の葉内からの注文は同社からの発注全体の中ではわずかなものにすぎず、他の客先の事例はいずれも主観的、感情的なものにすぎない。さらに、無断欠勤との点については、被告の指導のまずさもあって問題がこじれたため有給休暇のつもりで休んだものであるから、解雇事由にはならないというべきである。

したがって、本件解雇は無効であるから、原告は、被告に対して、なお雇用契約上の権利を有する地位にある。

第三争点に対する判断

一  争いのない事実、証拠(<証拠・人証略>)によると、次の事実が認められる。

1  原告は、平成元年一〇月九日に被告会社八王子営業所に初出社して以来、稲垣営業所長のもとで、研修を受け、その後、主として日野自動車の担当となって、営業業務に従事した。当時、八王子営業所は、稲垣所長及び原告ほか二名の営業担当者を含め計六名の人員で、ビルの一室を借りて営業活動を行っていた。

2  初出社の当日、原告は、京王線「めじろ台駅」から八王子営業所に電話した際、道順の説明に対し「迎えに来てくれるんじゃないんですか。」と言って、出迎えを求め、同所長が車で同駅まで出迎えると、初対面の同所長に対し、近くに停めた車のところまで歩くわずかの間に、「三〇歳で独身だと昇給しないのでしょうか。」と唐突に尋ねた。さらに、車内でのわずかの間にも、「女を紹介してくれませんかね。」などと発言したりし、続いて、事務所に到着して、始めて応接セットに対面して、被告会社の規定や営業内容について説明を受けた際、ソファに背をもたせて、足を開いたり組んだりする姿勢をとるなどし、稲垣所長は、右のような原告の態度を相当に横柄なものと感じ、これらのことから、原告の言動に対して、かなりの違和感を抱いた。

その後、原告は、主として稲垣所長に客先に同行してもらって研修を受け、同年一〇月二五日ころから同年一一月一〇日ころまで工場での製品の研修を受け、その後も同行研修を受けた。こうした間、原告の歯並びについての悩みの話を聞いたり、人生の目標の話を聞いたりする様々な場面で、稲垣所長の違和感は拡大されていき、そのうち、原告の方も同所長に対して反感を持ち、これを強めていった。

3  また、この間、稲垣所長は、日野自動車関係の代理店である三共商事株式会社立川営業所の山本昭三所長に原告を引き合わせたが、同所長も、原告の態度を横柄に感じ、稲垣所長に対して、「一般常識に欠けるのではないか。」などと告げた。

4  稲垣所長の原告に対する違和感は、前記2のほか、たとえば、顧客からの問い合わせがあった際、まったく関連のない別の商品の売り込みをするというような原告の日々の言動によるものであり、また、業務日報の記載方法にしても、初め原告は、勤務中の行動すべてが分かるようにというつもりで逐一行動を記載していたが、稲垣所長としてみれば、誰と面談したとか、誰と擦れ違って挨拶したとかいう程度のことを記載する必要はなく、面談したのであれば、どのような話をしてどのような情報を得たのかを具体的に記載しなければ意味がないと思い、その旨説明したが、そうすると、原告は、情報がなければ記載しなくてよいと理解するというふうで、稲垣所長の言ったことが理解されず、益々、稲垣所長と原告との間の意思疎通は困難な状況に向かっていった。

5  原告の担当業務についてみると、平成二年初め、原告は、自らの希望で、日野自動車の担当にしてもらい、その他、高津伝動精機株式会社等も担当するようになった。日野自動車については、中間に代理店として三共商事が入っており、日野自動車に対する営業活動については三共商事との協調が必要であった。しかるに、稲垣所長は、そのうち、こうした客先の担当者から、原告について、馴れ馴れしすぎる、現場に無神経に入ってくる、仕事中に話しかけられて迷惑するなどという苦情を聞くようになり、三共商事の内部でも、社員が原告からの電話は、冒頭から会社名も名乗らず、ぶしつけに「中川だけど」と話し始めて感じが悪いなどの指摘がなされるようになった。また、原告は、他の八王子営業所員との関係でも、唐突な、あるいは、結論が自分勝手に先行する話し振りなどから、孤立した状態になり、同僚が一緒にいるのを避けるような状態になった。

同年五月には、日野自動車の葉内からの発注がなくなってしまい、そのため、稲垣所長は、三共商事立川営業所の山本所長の依頼を受けて、同所長とともに日野自動車に謝罪に行ったりしたこともあった。その際、稲垣所長は、「他社の人事のことにまで首を突っ込みたくはないが、このまま原告を日野自動車の担当にしておくと、いずれは注文が減るよ。」という趣旨のことを言われた。

被告においては、原告のような三〇歳を超えた中途採用者に対しては、即戦力という捉え方をし、若年の新卒者と同様の初歩からの社会常識の研修はしていない。

6  原告は、当初予定された試用期間満了後も被告の従業員として扱われていたが、同年三月二八日付けで、被告本社人事部から稲垣所長に対し、原告についての正社員登用試験の実施要領と考課表用紙及び試用期間中の実績報告用紙が送付された。

右実施要領には、論文試験につき、「職場の課題と私の職務」、「自己啓発目標とその達成方法」という二題の課題が記載してあり、その記述要領として、前者につき「職場全体を見つめ、建設的な考え方を述べる事。現在の職務に絞って記述し、且、今後の仕事の取扱い方について述べる事。」と、後者につき「主として自己の職務に関連する中期目標をかかげその具体的な達成方法を述べる事。」と記載してあった。

原告は、提出期限前である同年四月九日に右課題論文(<証拠略>)を提出したが、その内容は、具体性を欠くなど右記述要領に副ったものとは言いがたかった。

7  他方、稲垣所長から三間本部長に対し、<1>日野自動車から原告の出入りは遠慮するようにという申し入れがある、<2>八王子営業所の他の所員とも親しくならず、所内の秩序が保たれ難い、<3>原告との会話の中で内容が理解し難いことが多いなど、原告の日常の勤務態度等から、同所長としては本採用の申請を延期したい旨の申し入れがあった。

稲垣所長が横浜営業所を介して三間本部長に提出した「考課表(本雇登用)」には、第一次評定者である同所長の評価として、正確さ、知識、協調性、判断力、創造性、理解力の各項目につき、五点評価による二点、他の項目はすべて三点の評価が記載されており、全体の平均は二・四点であった。そして、総評は、「人物」の欄が、「被害妄想強く自己陶酔型。不可解な面が多い。」とされ、「登用の可否」の欄が、「販売職不向」とされていた。

8  稲垣所長の右意見を受けた三間本部長は、同年四月二三日、原告と直接会い、原告に対し、まず、稲垣所長の指摘した日野自動車との件や所内での融和の件について原告に尋ねたところ、原告は、<1>自分は日野自動車から訪問を拒否されたことはない、今でも日野自動車に行けば面談できる、<2>所内では親しく話をしているなどと主張した。

そこで、同本部長は、原告に対し、「販売業務は相手の信頼を得ることが大切である。客先とのトラブル、所内でのトラブルは絶対にだめだ。十分に話し合って信頼関係を築くように努力してほしい。自分を改造しなければならないという意識を十分に持ってほしい。」などと話し、また、課題論文について「本面接までに書き直して再度提出するように。」と告げた。

9  同年五月七日、右指示にかかる再論文(<証拠略>)の提出を受けた三間本部長は、一方、原告に対しては、原告から提出された課題論文についての同年五月一〇日付けのコメントで、「職場の課題と私の職務」に関連して、営業所内、ユーザー、代理店に対し誤解を受けぬように言動に留意することを期待する旨、また、「自己啓発目標とその達成方法」に関しては、具体的な方法論を記載するように指導した。そして、「本面接までに今一度貴殿の考えをまとめ、レポートを小職迄提出すること。」と指示し、また、本社人事部への手続をこれ以上遅延できないので、右論文等を送付するが、右コメント等の趣旨を踏まえてよくよく考えておくようにと付記した。

他方、同本部長は、前記「考課表(本雇登用)」の総評欄の「登用の可否」を、「多少問題あるも採用可」と書き直し、また、稲垣所長が同時に三間本部長に提出した原告の「試用期間中の実績報告」には、「新規開拓ユーザーなし」、「接客面でのトラブル」との記載があっただけであったが、三間本部長は、「本人の意欲は旺盛であることが察せられるが、仕事の不慣れのため空回りする傾向あり、基本的技術、知識を修得させれば、ユーザー開拓要員として使用可能」などと記載を追加し、同年五月七日、本社人事部に対して、これらを提出するとともに、原告の本採用申請をした。

これに対し、本社人事部は、原告のそれまでの勤務状況の報告等から、本採用不適当と判断したが、三間本部長がさらに、本採用延期という扱いをして今後の指導の結果を見てほしいとの申し入れをしたため、しばらく試用期間を延長する措置をとることとした。その上で、三間本部長は、稲垣所長に対し、原告に対する個別指導を継続するように指示した。

10  しかしながら、原告については、顧客からの苦情がなお相次いだ。たとえば、高津伝動精機からは、同年二月のこととしてではあるが、「会社の近くまで来ているのに、電話で『何か用事がありますか。なければ行かなくていいですね。』と言われた。どちらがお客か分かんないね。」という、有限会社コウキ工業からは、「納入済製品の手直し作業を依頼したが、話が通じない。担当者を変えてくれないか。」という、株式会社千葉商店からは、「コニカ株式会社へ同行販売に行った際、相手方に大変に失礼な言動をとった。」という苦情がそれぞれあり、斎藤鉄工株式会社から、「担当を変えろ。」と言われたりした。また、日野自動車からは、そのままでは被告の製品を使用する者が減ってしまうだろうと指摘される状態であった。

11  こうしたことから、稲垣所長は、同年八月一七日に三間本部長からの原告の最近の勤務態度はどうかと問い合わせに対して、以前にも増して反抗的であり、客先との関係も改善できない、所員も敬遠して融和が図れないと報告した。そのため、同本部長は、原告に再度直接会って話をするので同月三〇日に原告を東京本社に出頭させるように稲垣所長に指示した。

また、そのころ、稲垣所長は、客先からの苦情も多く、原告がこのまま八王子営業所で営業職として継続勤務することは無理だと思うので、原告にそのように告げてよいかと三間本部長に尋ね、その了解を得て同月二八日、原告に対し、その旨伝えるとともに、再度同月三〇日に東京本社に行って三間本部長と会い、適性に応じた配置換えを検討してもらうようにと指示した。これに対し、原告は、「私を必要としないのか。」、「もったいないですよ。」、「要らないんだったら、明日から出てこなくていいですね。」などと言った。

12  原告は、翌日無断欠勤し、翌三〇日、東京本社の田口課長に対し、電話で、一旦、「いまさら本部長に会っても無駄だ。」と告げたが、その後、「無駄かどうかは面接後決定すればよい。」という三間本部長の意向に従い、結局、同日午後、東京本社に出頭した。

三間本部長は、原告と話し合った結果、配置転換を前提として、原告に対し、<1>被告に勤める意思があるのか、<2>あるとすればどのような業務がよいか、<3>自分の長所短所は何かという三点についてレポートを提出するよう指示し、「そのレポートを見た後、今一度どの部門がよいか話し合おう。」と伝えた。なお、その際、同本部長は、原告に対し、「休むなら正規の手続をとって休め。無断欠勤は就業規則違反でトラブルになる可能性がある。」と注意した。

13  ところが、原告は、その翌日及び同年九月三日から同月六日までの間、無断で欠勤し、この間、右指示に基づくものとして原告が提出した書面は、次のとおり記載された内容のものであった。

「1 進退について

稲垣さんが私に対して行った専制と圧迫は、人権の無視と軽侮であり、基本的人権の侵害であります。依って、裁判所に訴え、私の身は国に委ねるつもりです。

2 希望職について(一体何をしたいか)

会社内における私の希望職は、今の私には記す事が出来ません。

ただもう一度大学に行きたい。私が卒業した九州産業大学は興味あふれる資質の者が多かったように思います。少なくとも私の友達はそうでした。

成熟した社会と言われる現在の日本は、学歴社会である事は否定できない事実です。学歴社会に批判的な私も結局同じ物差で計っているような気がします。

私は経済的に大丈夫なら、有名一流大学を目指したいと思っています。

3 私の長所と短所について(私の性格)

私が長所と思っている事が第三者には短所に感じる事もあります。それで勝手ながら、長所と短所を含む性格というものについて書きます。

私の性格を形成している大きな要素として、2つの核があります。1つは大変過剰な「自信」であります。人前で物怖じしなかったり、頑固で我慢強い性格は、この核によるものです。もう1つの核は「性善説」を信じている心です。学生時代に友達が多かったり、思いやりの気持や、人に優しくなれる性格は、この核によります。「自信」という核は、大きくなったり、小さくなったりしますが、「性善説」という核は失いたくない。性格が変わってしまいます。」

13  以上、三間本部長は、採用時、原告には見込みがあると考え、稲垣所長に対しても、原告の赴任前に、やる気のある青年だという連絡をし、また、試用期間が経過する段階においても、何とか原告を本人の希望する営業職として残してやろうと考え、稲垣所長の営業職不向きとの意見があったにもかかわらず、直接の面談結果に基づき、本採用の申請をし、その後も、何かと原告を庇って、雇用を継続させようと努力し、被告本社人事部において、本採用不適当との判断が下されたにもかかわらず、なお、試用期間延長という扱いをした上で、配置転換によって原告の雇用を継続してやろうとしたが、その結果として、原告が提出したレポートが右のようなものであったため、遂に原告に失望してしまった。

他方、原告は、同月七日、稲垣所長から電話で出勤するように指示されて、やっと遅刻ながら出勤したが、同月一二日には出勤したものの、正午には気分が悪いと言って早退した。

14  そして、翌一三日、三間本部長は、東京本社にやってきた原告と面談し、原告に対し、「自分の真意が理解されていない。自己の進退を国に委ねるなどとは考え方が間違っている。学校に行きたいというのでは仕事をする意思はないということではないか。」と話したが、原告は、「稲垣所長の指導、教育のやり方が間違っている。」などと同所長に対する非難を述べ、裁判所に訴えるなどと言った。このため、三間本部長は最早自分の助力もこれまでと判断し、「人事部に身柄を預ける。」と述べた。

15  以上の後に本件訴訟代理人相互間での交渉を経て、本件解雇の意思表示がなされた。

二  右事実によると、三間本部長が最後まで原告の雇用を継続できるように取り計らおうとして努力し、配置転換を前提とした希望を尋ねるなどしたにもかかわらず、原告は、最終的に、自ら前記一12のような回答をして、被告で雇用を継続されることを自ら望まないものとしか受け取れない返事をし、その後も同一13以下のような態度であったため、結局、被告において、配置転換をしたところで原告の雇用を続けることは困難と判断して、解雇やむなしとの結論を出したものとみるほかはないから、その余の点について判断するまでもなく、原告には、被告就業規則三五条二号、四号に該当する事由があるものといわざるを得ない。

原告本人は、平成二年八月三〇日の時点で既に被告には原告の雇用を継続する意思がなかったと捉えるかのごとく供述するが、客観的事実の経過は、右認定一11以下のとおりであり、仮に被告として原告の雇用の継続意思をなくしていたのであれば、何もわざわざ配置転換を前提とするレポートの提出を求める必要もない道理であり、原告の疑いは邪推というほかはない。また、原告訴訟代理人は、原告が右のような最終的態度に出たこともやむを得ない事であったかのように主張するが、営業職として客先とのトラブルは絶対にいけないという三間本部長からの説諭も効を奏さず、さらに原告が客先から不評を被り続けたことは前記認定のとおりであり、そのことだけで解雇事由として十分かどうかはともかく、右認定のような多数の顧客からの苦情がいずれも無視すべき不当なものであると解する根拠は認められず、少なくとも、これが前記一12以下のような原告の態度を正当化する要因たり得ないことはいうまでもない。原告訴訟代理人としては、被告側の指導がまずかったために、原告の右のような態度が惹起されたと主張するかのようでもあるが、被告側、とくに稲垣所長の指導が原告の性格的特質に照らして最適であったかどうかはともかく、前記認定の経過に照らせば、これをもって不当な挑発行為であるなどといえないこともまたいうまでもない。(人証略)によれば、被告社内において稲垣所長はいわゆる人物として評価されている立場にあったことが認められ、また、当裁判所における尋問に際しての供述態度や供述内容等をみても、稲垣所長が少なくとも極く普通の良識人であり、管理職としての考え方に欠けるところは見いだすことができないばかりか、原告が主張するとおりの経過を想定してみたところで、稲垣所長の対応の仕方が原告の前記最終的態度を正当化するものとみることは困難である。原告訴訟代理人は、あたかも若年の新卒者の採用時と同様に、原告に対しても社会的言動の当否、妥当性について逐一初歩から教え込むべきだったという考えを前提として主張をしているかのようであるが、被告が中途採用者のとくに三〇歳を超えた者に対する処遇として、即戦力という捉え方をしたことをもって不当とする根拠はない。無断欠勤の点についても、それだけで解雇事由として十分かどうかを措くとしても、少なくとも所定の手続をとらずに休むことが失当であることも多言を要しないところであり、これが原告の前記態度を正当化するものでないことは当然である。そうすると、本件解雇をもって解雇権の濫用というべき特段の事情は何も認めることができず、要するに、原告の態度は、社会人としては余りに甘え過ぎといわざるを得ない。

よって、その余の点について判断するまでもなく、本件解雇は有効であるというほかはない。

三  したがって、本件解雇により原被告間の雇用契約関係が終了した以上、原告の請求は失当である。

(裁判官 松本光一郎)

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